公的資金が投入されているあいだは、経営健全化計画で高リスクの投融資は抑えられたが、そのくびきから解き放たれるやすぐに高リスク案件に手を出した。
行員のモラール低下も招いた。
収益を上げるためには人件費の削減が必要だった。
そこで公的資金を返し終え、頭取の報酬は倍にしても、行員の年収は抑え気味に運営した。
行員の年収を抑えれば抑えるほど、銀行の利益が出て頭取の給与が上げられる。
そんな状況を嫌気した優秀な銀行員が外資などに流れていった。
さらにサブプライムローン問題で大きな損失を出しても、報酬を引き上げた大手銀行の経営者たちは経営責任を取らずに会長に居座った。
もともと高い報酬は経営責任の対価であり、失敗すれば経営責任が問われる。
とりわけサブプライムローンでは、グローバル、投資銀行業務を推進した頭取の判断ミスであり、経営責任は明確なはずだ。
本来なら株主から退任要求が出てもおかしくない。
しかし損失を出したのは持ち株会社傘下の銀行と、そのまた傘下の証券会社であり、株主のチェックが及びにくい。
持ち株会社がガバナンスを効きにくくし、そんな体制のもとで高額報酬が温存されている。
失われた時を経ても報酬問題は解決できないまま残されている、それが日本の現状だ。
報酬に対する政府関与を警戒する金融界は、報酬の見直しに取り組む姿勢を示し始めた。
世界の銀行や証券会社、保険会社などで構成する国際金融協会は、2008年7月に「報酬についての行動原則」をまとめた。
行動原則は、従業員に支払ういわゆるインセンテイブ報酬について過度なリスクを取ることにならないようにする、リスクを調整して(短期の一時払いではなく)リスクが影響する期間にわたって支払う、その仕組みや考え方については株主に情報開示するなどの内容を盛り込んだ。
また、3月には、「金融サービス業界における報酬制度の進展と課題」と題する報告をまとめた。
4月にロンドンで聞かれるG7首脳会議(金融サミット)前に金融界として報酬問題に取り組んでいる姿勢を示すねらいだった。
その中で報酬制度が金融危機の一因であることを明記。
またボーナスが株主価値を映していないことや、報酬の水準自体が高いことも指摘している。
MのJ・S氏が公的資金を受けながらも、その4割をボーナス支払いにあてたことが発覚したのを受けて、自ら襟を正す姿勢を示す必要があった。
金融危機対応に取り組んできた金融安定化フォーラム(FSF)は、報酬制度を独自に調べた。
赤字を出したり、公的資金を投入されながらも何億円、何十億円もの年収を得ている銀行経営者で構成する国際金融協会のお手盛りの調査では、改革が進むとは考えなかったためだ。
FSF作業部会は、ほとんどの金融機関が報酬システムとリスク管理とは関係がないと考え、金融監督・規制当局も報酬システムのリスクへの影響について焦点を当ててこなかった、と批判した。
報酬制度は金融機関に過度なリスクを取らせる結果になりやすいにもかかわらず、金融機関にも金融当局にもそうした認識がほとんどなかったことを明らかにした。
FSFは、4月に「健全な報酬に関するFSF原則」をまとめた。
その中で、従業員の報酬評価を、その部門の管理職にまかせるべきでないとした。
管理職がその部門の業績を高めるために部門の従業員に業績連動の報酬を導入することが日常化している。
しかし、そのシステムが過度なリスクテークにつながるもとであるから禁止すべきだ、との立場を打ち出した。
さらに、報酬の支払いは短期間で完了すべきではない、との考え方も明示した。
リスクが長期にわたる場合は、そのリスクがあとになって顕現化する可能性があるためだ。
支払い時点でリスクテークに伴う利益が不確かな場合は、その報酬支払いを問題視するよう呼びかけている。
またFSF原則は、金融当局がリスク評価の対象に報酬制度を含め、当局は報酬制度に介入すべきだとしている。
加えて金融機関は報酬慣行について情報開示すべきだとした。
重要な点は、報酬を利益至上の道具にしにくくしたことだ。
これまで金融機関は、利益至上主義で報酬制度については高い利益を上げるための手段のひとつと位置付けてきた。
利益さえ上げればそれでよく、そのためには高いリスクを取れる人を高い報酬で雇ってくればいい、という安易な人事が横行した。
日本で高いリスクを取りがちなディーラーが、外資系金融機関を渡り歩いたのがその一例だ。
FSFの原則に則ると、報酬はひとつのディーリング・トレーディング部門の裁量では決めにくくなる。
利益追求とは独立した部署で決められるようになり、また、日本など報酬制度の情報開示が遅れていた国では、報酬の開示が進みそうだ。
欧米の大手金融機関は、トップ数名(日本でいえば商法で定められた取締役に相当)については、年間に支払った給与や賞与、渡したストックオプションの額を個別に開示している。
それに対して日本は、頭取や会長の年収や退職金などは個別開示されておらず、公的資金返済直後に自らの年収を倍に引き上げてもチェックできない仕組みだ。
監督官庁である金融庁には、天下りなどを意識してか邦銀トップの年収には甘いところもあるが、FSFで情報開示を決めた以上、最低でも欧米並みの開示は欠かせない。
実際の報酬支払いでは、成果ボーナスを後払いする慣行が広がりそうだ。
これまでは、当期に多額の利益を上げればそれに応じてボーナスが増えた。
ところがサププライムローンのように、当初は融資すれば利益が上がるが、2、3年後にリスクが顕現化する取引は少なくない。
このため、ある取引で利益が上がっても当期に支払うボーナスは一部に抑え、後にリスクが顕現化しでもなおその取引が会社に巨額の利益をもたらしつづければ、その時点で残りのボーナスを払うような仕組みが導入される見通しだ。
米O政権は、報酬問題に対応するために2つのアプローチを打ち出した。
ひとつは報酬委員会の独立性の確保、もうひとつは英国で成功例がある、株主による報酬への発言権を確保する「セイ・オン・ペイ」の仕組みの導入だ。
報酬委員会は、本来的には長期的な株主の価値を守るため、経営者の報酬を決めなければならない。
しかし実際に報酬委員会が経営から独立していないことが多く、複雑化する報酬に関する交渉をする手段すら与えられないこともある。
そこで新しい規制では、まず報酬委員会が独立性基準を満たすことを求める。
さらに報酬委員会は、報酬に関するコンサルタントや法律関連の相談を、経営とは離れて受けられるようにする。
こうしたことによって、報酬委員会がもともと持っているはずの株主利益を向いた機能を取り戻す。
セイ・オン・ペイは、英国が但年に取り入れた報酬抑制策である。
すべての上場企業に報酬に関する株主の投票(非拘束)を義務付ける。
報酬は上級経営オフィサiに対するものを対象とし、その給与、ボーナス、ストックオプションやその総額、年金なども含めて情報開示を義務付ける。
明確な報酬の上限を示すものではないものの、一定の抑制効果を期待している。
米国が報酬抑制に乗り出したのを受け、この分野での協調も加速している。
9月5日に開いた主要国・地域、財務相・中央銀行総裁会議は、過度の報酬がリスクテークの温床になっていることを確認。
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